フリーランス新法の取引条件明示とは?発注時に確認する項目
発注する側・受注する側のフリーランス。契約書や発注書の抜け漏れを減らしたいフリーランス向けのチェックリスト
ひと言でわかる
業務委託をしたら、書面やメールなどで取引条件を直ちに明示する義務があります。報酬・支払期日・業務内容などの項目を発注前後に確認します。
口頭や曖昧なメッセージだけで発注を受け、後から業務範囲や報酬額でトラブルになることに不安を感じているフリーランスは少なくありません。業務委託をしたときは、書面や電子メールなどの電磁的方法によって取引条件を直ちに明示する義務があります。発注前後に報酬の額、支払期日、給付の内容などの項目を確認することがトラブル防止につながります。
令和6年11月1日に施行された「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(フリーランス・事業者間取引適正化等法、令和5年法律第25号)では、個人として業務委託を受けるフリーランスの取引適正化と就業環境の整備を目的として、業種横断的なルールが定められました。内閣官房ほかによる令和3年の実態調査によると、フリーランスの約4割が報酬不払いやり支払遅延などのトラブルを経験しており、約4割が記載の不十分な発注書しか受け取っていないか、そもそも発注書を受領していません。
フリーランスと発注事業者の間には交渉力や情報収集力の格差が生じやすく、フリーランスが取引上弱い立場に置かれやすい特性があります。そのため、発注事業者に対して取引条件の明示義務をはじめとする各種の規制が課されています。
取引条件の明示は、発注者が企業である場合だけでなく、フリーランスが別のフリーランスに発注する場合にも適用されます。発注時および受注時に確認すべき明示事項や方法、法律上の義務と禁止行為の内容を把握しておく必要があります。
フリーランス新法における取引条件明示の基本原則
業務委託の取引を行う際、発注事業者は特定受託事業者に対して直ちに取引条件を書面又は電磁的方法により明示しなければなりません。この規定は法律の第3条に定められており、当事者間の認識の相違を減らしてトラブルを未然に防ぐことを目的としています。
法律の対象となる「特定受託事業者」とは、業務委託の相手方である事業者であって従業員を使用しないものと定義されています。個人事業主だけでなく、一人で仕事を受けて業務を行っている一人社長の法人や、士業、一人親方も該当します。また、特定の事業者と雇用関係にある個人が副業として行う事業について、従業員を使用せずに事業者として業務委託を受ける場合も特定受託事業者に該当します。
一方、業務委託をする発注側の事業者は「業務委託事業者」と呼ばれます。業務委託事業者には、従業員を使用している法人や個人事業者だけでなく、従業員を使用しない個人事業者や一人社長の法人も含まれます。つまり、フリーランスが他のフリーランスに業務委託をする場合であっても、発注側のフリーランスには取引条件の明示義務が課せられます。
法律が適用される取引は、事業者がその事業のために他の事業者に物品の製造、情報成果物の作成又は役務の提供を委託する事業者間取引(BtoB)の業務委託です。企業が宣材写真の撮影を個人カメラマンに依頼する取引は対象となりますが、消費者が家族写真の撮影を依頼するような消費者取引(BtoC)や、カメラマンが自作した写真集をネット等で販売するような売買取引は対象外となります。
取引条件として発注時に明示が求められる事項と未定事項の扱い
発注事業者が業務委託をしたときに明示しなければならない取引条件は法律で定められています。発注事業者と特定受託事業者は、業務委託を開始する時点でこれらの項目が正確に記載されているかを確認する必要があります。
明示事項には、発注事業者とフリーランスの商号、氏名又は名称等、業務委託をした日、給付又は提供される役務の内容、給付の受領又は役務の提供を受ける期日、場所が含まれます。さらに、給付の内容について検査をする場合は検査完了期日、報酬の額、支払期日、金銭以外の方法で報酬を支払う場合の明示事項を明示しなければなりません。
取引条件を明示する時点で、内容が定められないことについて正当な理由がある事項(未定事項)がある場合は、例外的な手続きが認められています。当初の明示の際には、確定している事項に加えて、未定事項の内容が定められない理由および未定事項の内容を定めることとなる予定期日を明示しておく必要があります。
その後、未定事項の内容が定められたときは、直ちにその定められた内容と当初の明示との相互の関連性を示す記載を特定受託事業者に明示する補充の明示を行わなければなりません。契約内容を明確に取り交わす手順については、業務委託契約書の書き方を確認することが重要です。
| 取引条件の区分 | 明示が必要な具体的項目 | 対応方法と留意点 |
|---|---|---|
| 当事者情報・発注日 | 発注事業者および特定受託事業者の商号、氏名又は名称等、業務委託をした日 | 取引の当事者を特定し、発注が行われた日付を正確に記載する。 |
| 業務内容・期日・場所 | 給付又は提供される役務の内容、給付の受領又は役務の提供を受ける期日、場所 | 委託する仕様や納品場所、提供期日を具体的に指定する。 |
| 検査に関する事項 | 給付の内容について検査をする場合の検査完了期日 | 検査を行う場合は完了期日を明記する。検査を行わない場合は設定不要。 |
| 報酬に関する事項 | 報酬の額、支払期日、金銭以外の方法で支払う場合の明示事項 | 金額および支払期日を明示する。フリーランスの支払条件に適合させる。 |
| 未定事項がある場合 | 未定事項の内容が定められない理由、内容を定める予定期日 | 内容確定後、直ちに当初明示との関連性を示して補充の明示を行う。 |
取引条件を明示する方法と書面交付を求められた場合の対応
取引条件の明示は、書面の交付または電磁的方法による提供のいずれかの方法を選択して行うことができます。発注事業者がどちらの方法を選択するかを決めることが可能です。
電磁的方法として認められているのは、電子メール、ショートメッセージサービス(SMS)、メッセージ機能があるSNSなどのうち送信者が受信者を特定して送信できる電気通信による方法です。また、電子ファイルのデータを保存したUSBメモリやCD-R等の電磁的記録媒体を交付する方法も認められています。
法律の第3条第2項に基づき、業務委託事業者が電磁的方法により取引条件を明示した後に、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、遅滞なく書面を交付しなければなりません。これは電子機器の扱いに不慣れなフリーランスに配慮するための規定です。
ただし、特定受託事業者の保護に支障を生ずることがない以下の3つの場合には、書面交付の請求があっても改めて書面を交付する必要はありません。第1に特定受託事業者からの電磁的方法による提供の求めに応じて明示をした場合、第2に定型約款を内容とする業務委託がインターネットのみを利用する方法により締結され定型約款がインターネット上で閲覧できる状態にある場合、第3に既に書面の交付をしている場合です。なお、電子メール等で明示された後に特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに閲覧できなくなった場合は除かれます。
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発注事業者の体制と業務委託の期間によって課される義務の違い
発注事業者に課される法律上の義務や禁止行為は、発注事業者が従業員を使用しているかどうか、および業務委託の期間の長さによって段階的に適用範囲が異なります。
従業員を使用する発注事業者は「特定業務委託事業者」と定義されます。ここでいう「従業員を使用」とは、週所定労働時間が20時間以上かつ継続して31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用することを指します。週15時間労働や2週間の雇用見込みなど、短時間・短期間の一時的な雇用のみの場合は従業員を使用していることにはならず、特定受託事業者の区分となります。
特定業務委託事業者は、取引条件の明示義務(第3条)に加えて、期日における報酬支払義務(第4条)、募集情報の的確表示義務(第12条)、ハラスメント対策に係る体制整備義務(第14条)が課されます。広告等により2人以上の多数を募集する際は、氏名又は名称、住所(所在地)、連絡先、業務の内容、業務に従事する場所、報酬の6事項を欠かないようにする必要があります。また、セクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、パワーハラスメントへの相談窓口設置や方針明確化が求められます。
業務委託の期間が1か月以上(契約の更新により継続して1か月以上となる場合を含む)になると、第5条に定められた7つの禁止行為が適用されます。さらに、業務委託の期間が6か月以上(契約の更新を含む)の場合は、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務(第13条)および中途解除等の事前予告・理由開示義務(第16条)が課されます。
| 発注事業者の区分 | 委託期間の要件 | 課される義務および禁止行為 | 主な根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 業務委託事業者(従業員なし・個人含む) | 全期間(単発含む) | 書面等による取引条件の明示義務 | 法第3条 |
| 特定業務委託事業者(従業員あり・組織) | 全期間(単発含む) | 取引条件明示、期日における報酬支払、募集情報の的確表示、ハラスメント対策体制整備 | 法第3条、第4条、第12条、第14条 |
| 特定業務委託事業者(従業員あり・組織) | 1か月以上 | 上記に加え、受領拒否、報酬減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益提供要請、不当な給付内容変更・やり直しの禁止 | 法第5条 |
| 特定業務委託事業者(従業員あり・組織) | 6か月以上 | 上記に加え、育児介護等と業務の両立に対する配慮義務、中途解除等の事前予告(少なくとも30日前)・理由開示義務 | 法第13条、第16条 |
報酬の支払期日に関するルールと再委託時の例外規定
特定業務委託事業者が特定受託事業者に業務委託を行う場合、報酬の支払期日は物品等を受領した日または役務の提供を受けた日から起算して60日以内のできる限り短い期間内で定めなければなりません。これは検査を行うかどうかを問わず適用される義務です。
当事者間で支払期日を定めなかった場合は、物品等を実際に受領した日が法定の支払期日となります。また、受領日から起算して60日を超えて支払期日を定めた場合は、受領日から起算して60日を経過した日の前日が支払期日となります。支払サイトのルールについてはフリーランスの60日ルールに沿って管理する必要があります。
元委託者から受けた業務を特定受託事業者に再委託する場合には、再委託の例外が認められています。特定業務委託事業者が、再委託である旨、元委託者の商号、氏名若しくは名称又は元委託者を識別できる事業者別の符号、および元委託業務の対価の支払期日を明示したときは、元委託支払期日から起算して30日以内のできる限り短い期間内で報酬の支払期日を定めることができます。
再委託の例外における元委託支払期日とは、元委託者と特定業務委託事業者の間で定められた支払の予定期日を指します。元委託者からの支払が実際に早まった場合や遅れた場合であっても、特定受託事業者に対する支払期日が変わることはありません。また、元委託者から前払金の支払を受けた特定業務委託事業者は、特定受託事業者に対して業務着手に必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をする必要があります。万が一報酬が期日通りに支払われない場合は、委託費未払い請求の手順を把握しておくことが重要です。
取引条件明示などの違反に対する申出先と相談窓口
法律に違反する事実がある場合、特定受託事業者は所管省庁に対してその旨を申し出ることができます。発注事業者が申出をしたことを理由として、契約解除などの不利益な取扱いをすることは法律の第6条第3項および第17条第3項により禁止されています。
取引適正化に関する事項(第3条の取引条件明示義務、第4条の報酬支払義務、第5条の禁止行為など)は公正取引委員会および中小企業庁が所管しています。就業環境整備に関する事項(第12条の募集情報的確表示義務、第13条の育児介護等配慮義務、第14条のハラスメント対策体制整備義務、第16条の中途解除等事前予告・理由開示義務など)は厚生労働省が所管しています。公正取引委員会、経済産業局、都道府県労働局の窓口のほか、所管省庁共通のオンライン申出受付フォームからも申出が可能です。
所管省庁は申出内容に応じて報告徴収や立入検査などの調査を行い、違反事実が認められた場合は指導、助言、勧告を行います。勧告に従わない場合には命令および公表が行われ、命令に違反した場合は50万円以下の罰金が課されます。
トラブルに関する相談窓口として、令和2年11月から「フリーランス・トラブル110番」が設置されています。弁護士による電話、メール、対面、オンラインでの相談対応や和解あっせんが行われており、法律が適用されない取引トラブルについてもアドバイスを受けることができます。なお、令和6年11月1日からはフリーランスを対象とした労災保険の特別加入制度も導入されています。
よくある質問
メールやSNSのメッセージで取引条件を明示しても法律上の問題はありませんか?
電磁的方法による明示として認められているため法律上の問題はありません。送信者が受信者を特定して送信できる電子メール、ショートメッセージサービス(SMS)、メッセージ機能があるSNSなどを用いて取引条件を送信することが認められています。
ただし、電磁的方法で明示した場合であっても、特定受託事業者から書面の交付を求められたときは、保護に支障を生じない例外事由に該当する場合を除き、発注事業者は遅滞なく書面を交付しなければなりません。
発注時点で報酬額や納期が決まっていない場合はどう対応すればよいですか?
正当な理由があって内容を定められない未定事項がある場合は、未定事項以外の事項に加えて、内容が定められない理由と内容を定める予定期日を当初に明示することで発注が可能です。
その後、未定事項の内容が確定した段階で、直ちに定められた内容と当初明示との相互の関連性を示す記載を補充して明示する必要があります。
フリーランス同士で業務委託をする場合も取引条件の明示義務は適用されますか?
発注側のフリーランスに対して取引条件の明示義務が適用されます。法律の第3条に定められた取引条件の明示義務は、発注側の事業者が従業員を使用しているかどうかにかかわらず、すべての業務委託事業者に課されています。
個人事業主や従業員のいない一人社長の法人が他のフリーランスに業務委託を行う場合であっても、直ちに書面または電磁的方法により取引条件を明示しなければなりません。
取引条件の明示義務に違反した場合どのようなペナルティがありますか?
所管省庁による調査が行われ、違反事実が確認された場合は指導や助言、勧告が行われます。勧告に従わない場合には命令や企業名の公表が行われます。
行政による命令に違反した場合には、法律の規定に基づき50万円以下の罰金が科されることになります。
発注者から取引条件が明示されないときはどこに相談できますか?
公正取引委員会、経済産業局、中小企業庁、都道府県労働局の行政窓口や、共通のオンライン申出受付フォームに違反事実を申し出ることができます。
また、弁護士にワンストップで相談できる「フリーランス・トラブル110番」に相談してアドバイスや和解あっせんを求めることも可能です。