個人事業主が経費にできるものの線引き

何が経費か迷う個人事業主向け。経費の範囲を知りたい

著者: アキスケ

ひと言でわかる

経費になるのは収入を得るために直接必要な支出で、家事分は按分する

事業を営む中で生じる支払いがどこまで経費として認められるのかについて判断に迷う個人事業主は少なくありません。個人事業主が所得税の計算において必要経費に算入できるのは、総収入金額を得るために直接必要な支出や業務上の費用であり、プライベートの生活費と混ざる家事関連費については業務に必要な部分を明らかに区分して按分する必要があります。

国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)および「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」(令和7年4月1日現在法令等)に基づくと、事業所得の金額は「総収入金額 - 必要経費」によって計算されます。適切な確定申告を行うためには、どのような支出が必要経費として認められ、どのような支出が認められないのかという法令上の要件を正確に把握しておくことが不可欠です。

経費にできるかどうかの判断基準は、支出の名目だけで決まるものではありません。取引の記録に基づいて業務遂行上直接必要であったことが区分できるか、その年の12月31日までに債務が確定しているか、生計を一にする親族への支払いではないかといった複数の条件を満たす必要があります。

この記事では、国税庁が公表する公式情報に基づき、個人事業主が必要経費に算入できる金額の範囲、家事関連費の按分ルール、債務確定の3要件、親族間取引の特例、各種税金や借入金利息の取扱いについて体系的に解説します。

個人事業主の事業所得において必要経費になる基準とは何か

個人事業主が事業所得の金額を計算する上で必要経費に算入できる金額は、総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額、およびその年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額です。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)および「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」(令和7年4月1日現在法令等)において、この2つの区分が必要経費の基本範囲として定められています。

事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業を営んでいる人のその事業から生ずる所得を指します。ただし、不動産の貸付けや山林の譲渡による所得は事業所得ではなく、原則として不動産所得や山林所得に区分されます。事業所得の金額を算出する計算式は「総収入金額 - 必要経費 = 事業所得の金額」となります。

事業所得の計算において必要経費となる具体的な費用項目には、次のようなものがあります。

  • 売上原価:総収入金額に対応する商品の仕入代金や原材料費など
  • 給与、賃金:従業員等に対して支払う労務の対価
  • 地代、家賃:事業の用に供する事務所や店舗等の借上げ費用
  • 減価償却費:業務用の減価償却資産について年々に配分される費用

事業所得を計算する基礎となる総収入金額には、通常の売上金額だけでなく、金銭以外の物や権利その他の経済的利益の価額、商品を自家用に消費した場合や贈与した場合の商品の価額、商品などの棚卸資産について損失を受けたことにより支払を受ける保険金や損害賠償金等、空箱や作業くずなどの売却代金、仕入割引やリベート収入が含まれます。これらの収入を得るために直接要した費用や業務上の費用が、個人事業主の経費として控除されます。

自宅兼仕事場の家賃や水道光熱費はどこまで経費にできるのか

個人事業主が自宅兼仕事場などで事業を行う場合、家事上の費用は原則として必要経費になりませんが、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限って必要経費に算入できます。個人の業務においては、一つの支出が家事上と業務上の両方にかかわりがある費用が生じることがあり、税法上これを「家事関連費」と呼びます。

国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)によると、家事関連費の具体例として店舗併用住宅に係る費用(租税公課、家賃、水道光熱費など)が挙げられています。この家事関連費のうち必要経費になるのは、取引の記録などに基づいて、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる場合のその区分できる金額に限られます。

業務遂行上必要である部分を明確に区分できない場合や、取引の記録などの客観的な根拠が存在しない場合は、家事関連費の全額が必要経費として認められません。事業専用スペースの床面積割合や作業時間などの合理的な基準に基づいて業務使用分を算出し、支出の記録や按分の根拠資料を保存しておく必要があります。

支出の区分 費用の具体例 必要経費への算入基準
業務上の費用 商品の仕入代金、事務所専用スペースの家賃、業務専用通信費など 全額が必要経費に算入される
家事関連費 店舗併用住宅の家賃、水道光熱費、併用建物の租税公課など 取引の記録などに基づき、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限って必要経費に算入される
家事上の費用 個人的な生活費、個人の医療費、家族の私的な飲食費など 全額が必要経費に算入されない

業務とプライベートの双方が関係する支出については、業務遂行上の必要性を証明できるよう帳簿書類を整備することが求められます。按分計算を行う際は、経費率シミュレーターなどのツールを活用して正確な計算基準を把握することが有効です。

税金や借入金利息は必要経費として認められるのか

事業に関連して支払う金銭であっても、すべての税金や利息が必要経費になるわけではなく、税目や支出の性質ごとに算入の可否が法令で定められています。事業税のように全額が必要経費になる公課がある一方で、所得税や住民税のように必要経費に算入できない税金も存在します。

国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)に基づき、公租公課や各種支出の必要経費算入の判定基準を整理すると次のとおりです。

  • 事業税:全額が必要経費になります。
  • 固定資産税:業務用の部分に限って必要経費になります。
  • 所得税・住民税:必要経費になりません。
  • 罰金、科料および過料など:必要経費になりません。
  • 公務員に対する賄賂など:必要経費になりません。
  • 業務のための借入金の利息:業務用資産の購入のための借入金など、業務のための借入金の利息は必要経費になります。
  • 業務用資産の損失・修繕費:業務用資産の取壊し、除却、滅失の損失および業務用資産の修繕に要した費用は、一定の場合を除き必要経費になります。
支出項目 必要経費への算入判定 法令上の取扱いおよび留意点
事業税 算入できる(全額) 事業所得を生ずべき事業に対して課されるため全額が必要経費となる
固定資産税 算入できる(業務用部分のみ) 店舗併用住宅などの場合、業務の用に供されている部分を区分して算入する
所得税・住民税 算入できない 個人に対して課される税金であるため必要経費には算入できない
罰金・科料・過料 算入できない 法令違反等に伴う制裁的支出であるため必要経費とならない
業務のための借入金利息 算入できる 業務用資産の購入資金など、業務に直接必要な借入金に対する利息は必要経費となる
業務用資産の修繕費・損失 算入できる(一定の場合を除く) 業務用資産の取壊し、除却、滅失の損失および修繕に要した費用は必要経費となる
公務員に対する賄賂など 算入できない 不正な利益の供与に該当する支出は必要経費とならない

なお、不動産所得を生ずべき業務の用に供する土地等を取得するために要した負債の利子の額は、不動産所得の計算上必要経費になりますが、不動産所得の金額が損失(赤字)となった場合には、その負債の利子の額に相当する部分の損失の額は生じなかったものとみなされ、他の所得金額との損益通算はできません。

支払った費用はいつの年の必要経費として算入されるのか

必要経費となる金額は、現金を支払った日ではなく、その年において「債務の確定した金額」です。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)において、債務確定主義の原則が明記されています。ただし、債務の確定によらない減価償却費などの費用も存在します。

その年に実際に現金を支払った場合であっても、その年に債務が確定していないものはその年の必要経費になりません。逆に、年内に現金を支払っていない未払いの状態であっても、その年に債務が確定しているものはその年の必要経費に算入されます。

税法上「その年において債務が確定している」と判定されるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. その年の12月31日までに債務が成立していること。
  2. その年の12月31日までにその債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
  3. その年の12月31日までに金額が合理的に算定できること。

この3要件のすべてを満たしてはじめて、未払金等であってもその年分の必要経費として計上することができます。日々の取引を正確に期日管理し、債務確定時期に基づいた適正な帳簿付を行うためには、クラウド会計ソフトを活用した日々の記帳管理が重要となります。

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生計を一にする家族や親族に支払う給料や家賃は経費にできるのか

個人事業主が生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃や給与賃金は、原則として必要経費になりません。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)および「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」(令和7年4月1日現在法令等)において、生計を一にする親族間における対価の支払いは経費不算入とされ、受け取った側も所得として扱わないことと規定されています。

この原則は、土地や家屋に限らずその他の資産を借りた場合も同様です。ただし、例えば子が生計を一にする父から業務のために借りた土地・建物に課される固定資産税等の費用については、子が営む業務の必要経費として算入することができます。

親族に対する給与賃金についても原則は経費になりませんが、一定の要件を満たす場合には、申告区分に応じて特例措置が認められています。

  • 青色申告者の場合:事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が、事業主の事業に従事することができると認められる期間の2分の1を超える期間、その事業に専ら従事することにより、税務署長に提出された届出書に記載された範囲内の給与の支払を受けた場合には、事業主はその給与の額のうち労務の対価として適正な金額を事業所得の必要経費に算入することができます(青色事業専従者給与)。
  • 白色申告者の場合:事業主と生計を一にする配偶者その他の親族が、事業主の事業にその年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事した場合には、事業主は、親族1人につき最高50万円(配偶者の場合には最高86万円)を必要経費とみなして、事業所得の計算をすることができます(事業専従者控除)。
申告区分 親族への給与・控除の特例名称 従事期間の要件 必要経費への算入限度額
青色申告 青色事業専従者給与 事業に従事できる期間の2分の1を超える期間、事業に専ら従事すること 税務署長に提出された届出書に記載された範囲内で、労務の対価として適正な金額
白色申告 事業専従者控除 その年を通じて6か月を超える期間、事業に専ら従事すること 親族1人につき最高50万円(配偶者の場合は最高86万円)を必要経費とみなす

青色申告者と白色申告者とでは、専従者として認められる従事期間要件や算入できる金額の仕組みが異なります。事業専従者の給与を経費として計上する場合には、事前に税務署へ届出を提出しているか等の要件を確認する必要があります。

家内労働者等の特例や被災時の事業用資産損失はどう処理するのか

特定の条件下で事業を営む個人事業者や、災害によって事業用資産に損害を受けた個人事業者には、必要経費の計算や損失の繰越控除に関して特別な税制上の措置が設けられています。国税庁タックスアンサー「No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)」および「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)には、家内労働者等の所得計算の特例や災害に関する措置が規定されています。

家内労働者等については、実際の必要経費の額が65万円に満たない場合に、最高65万円まで必要経費とすることができる特例が存在します。この特例における限度額は、令和7年12月1日に施行され、令和7年分から適用される金額です。なお、令和2年分から令和6年分における限度額は55万円とされていました。

また、災害により事業用資産等に被害を受けた個人事業者に対しては、次のような税制上の措置が定められています。

  • 特定非常災害に関する特例:令和5年4月1日以後に発生する特定非常災害(特定非常災害の被害者の権利利益の保全等を図るための特別措置に関する法律第2条第1項の規定により指定された非常災害)により事業用資産などに被害を受けた場合、棚卸資産や事業用資産等につき生じた特定被災事業用資産の損失について、繰越控除の期間が通常の3年から5年に延長されます。
  • 青色申告者の繰越控除特例:青色申告者で、有する事業用資産等(土地等を除く)の価額のうちに特定被災事業用資産の損失額の占める割合が10パーセント以上である場合は、被災事業用資産の損失による純損失を含むその年分の純損失の総額について5年間の繰越控除が適用されます。
  • 青色申告者以外の繰越控除特例:青色申告者以外で、有する事業用資産等(土地等を除く)の価額のうちに特定被災事業用資産の損失額の占める割合が10パーセント以上である場合は、その年に発生した被災事業用資産の損失による純損失と変動所得に係る損失による純損失との合計額について繰越控除の特例が適用されます。
  • 東日本大震災に関する特例:東日本大震災により事業用資産などに被害を受けた個人事業者に対しては、被災事業用資産の損失、純損失の繰越控除、被災代替資産の特別償却、復興特別区域における特別償却又は税額控除などの措置が設けられています。

これらの特例措置に該当する場合は、通常の必要経費の計算や純損失の繰越しとは異なる特別な計算基準が適用されます。

よくある質問

自宅兼事務所の家賃は全額を経費にできますか?

自宅兼事務所の家賃は全額を経費にすることはできず、業務遂行上直接必要であったことが明らかに区分できる部分に限って必要経費に算入できます。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)において、店舗併用住宅に係る費用(家事関連費)は取引の記録等に基づいて業務に必要な部分を区分する必要があると定められています。

事業専用として使用している部屋の面積割合などの客観的な基準に基づいて按分計算を行い、その区分した金額のみを経費として計上します。区分できない家事上の費用部分は経費になりません。

所得税や住民税は事業の経費になりますか?

所得税や住民税は事業の必要経費になりません。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)において、所得税および住民税は必要経費にならないものとして明記されています。

一方で、事業に対して直接課される「事業税」は全額が必要経費になります。また、業務用資産に課される「固定資産税」については、業務に使用している部分に限って必要経費に算入することができます。

年末に未払いの費用はその年の経費にできますか?

年内に支払っていなくても、その年の12月31日までに債務が確定している費用であればその年の必要経費に算入できます。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)では、現金の支払いの有無ではなく債務が確定しているかどうかが算入時期の基準とされています。

年末時点で必要経費とするためには、「その年の12月31日までに債務が成立していること」「同日までに具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること」「同日までに金額が合理的に算定できること」の3要件をすべて満たしている必要があります。

同居する家族に支払った家賃は経費になりますか?

生計を一にする配偶者その他の親族に支払う地代家賃は原則として必要経費になりません。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)により、親族間で支払われた地代家賃等は支払った側の経費にならず、受け取った側の所得としても扱われません。

ただし、例えば子が生計を一にする父から業務のために借りている土地・建物について、その土地・建物に課される固定資産税等の実費費用については、子が営む業務の必要経費として算入することが認められています。

業務用のパソコンを購入するための借入金の利息は経費になりますか?

業務用の資産を購入するために借り入れた資金の利息は必要経費になります。国税庁タックスアンサー「No.2210 必要経費の知識」(令和7年4月1日現在法令等)において、業務用資産の購入のための借入金など、業務のための借入金の利息は必要経費になると定められています。

なお、返済した借入金の「元本」部分は債務の返済であり経費にはなりませんが、業務に直接関連する「支払利息」の部分は事業所得の計算上、必要経費として計上することができます。

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