開業費はいつ経費にできるか

開業したばかりの個人事業主向け。開業前の支出の扱い

著者: アキスケ

ひと言でわかる

開業費は繰延資産にあたり、任意の年に任意の額を償却できる

開業直後に発生した費用の処理方法に迷う個人事業主は少なくありません。開業費は繰延資産にあたり、任意の年に任意の額を償却して経費にできます。

所得税の計算においては、所得者自身がその年の所得金額と税額を計算して自主的に申告して納付する申告納税制度が建前とされています。事業を開始するために要した支出は、開業費として適切に計上することで、毎年の確定申告における所得金額の計算に反映させることができます。

事業を開始した後は、開業準備期間に支出した費用の償却だけでなく、事業運営に伴って発生する税理士報酬や弁護士報酬の支払い、従業員に対する給与の支払いなど、様々な税務上の手続きが生じます。これらの中には、支払者が所得税を差し引いて国に納付する源泉徴収の対象となる取引が含まれます。

令和7年4月1日現在の法令等に基づき、開業費の償却に関する原則から、個人事業主が担う源泉徴収義務の範囲、税務署への届出書類の提出期限、納期の特例制度まで、事業主が把握すべき税務ルールを整理して解説します。

開業費は繰延資産として任意の年に任意の額を経費にできる

開業費は税務上、繰延資産に分類され、事業主が選択した任意の年に任意の金額を償却して必要経費に算入できます。

繰延資産とは、支出した費用の効果が将来にわたって及ぶ資産を指します。開業準備のために支出した開業費は、開業した初年度に全額を経費化することもできれば、初年度は経費に計上せず、利益が多く発生した後の年にまとめて経費として償却することも認められています。

事業の収益状況に合わせて償却額を自由に調整できるため、赤字の年には償却を行わず、黒字が大きくなった年に償却を行うといった柔軟な税務処理が可能です。日々の記帳や決算書の作成にあたっては、会計ソフトを活用して開業費の未償却残高を正確に管理することが推奨されます。

申告納税制度のもとで適正な所得計算を行うためにも、開業費に該当する支出の領収書や証憑書類は厳重に保管し、各年分の帳簿書類に償却額を正確に記載する必要があります。青色申告を行う事業主においても、この任意償却の仕組みを活用して事業計画に応じた経費計上が行えます。

項目 税務上の区分 償却方法 経費計上の時期
開業準備の支出 繰延資産(開業費) 任意償却 任意の年に任意の額を経費に算入可能

開業準備で支払った税理士報酬や弁護士報酬に源泉徴収は必要か

給与所得について源泉徴収義務を有しない個人事業主が支払う弁護士報酬や税理士報酬などの報酬・料金については、源泉徴収をする必要はありません。

源泉徴収制度は、特定の所得の支払者がその支払の際に所定の方法で所得税額を計算し、支払金額から差し引いて国に納付する制度です。しかし、個人事業主自身が給与の支払を行っておらず源泉徴収義務者に該当しない場合、税理士や弁護士に支払う報酬から所得税を差し引く義務は免除されています。

例えば、給与所得者が確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても源泉徴収をする必要がないのと同様に、従業員を雇っていない個人事業主が開業手続きや申告相談のために税理士へ報酬を支払う場合も、源泉徴収を行わずに報酬の全額を支払います。

事業主自身が支払った税理士報酬などは、事業に必要な支出としてフリーランスの経費に計上できます。ただし、後述するように従業員を雇用して給与の支払を開始し、事業主自身が源泉徴収義務者となった場合には、税理士報酬などの支払時にも源泉徴収を行う義務が発生します。

開業時の届出書は個人事業の開業等届出書と給与支払事務所等の開設届出書のどちらを出すか

個人が新たに事業を始めたり事務所を設けたりした場合は「個人事業の開業等届出書」を提出することになっており、「給与支払事務所等の開設届出書」を別途提出する必要はありません。

国内において会社や個人が新たに給与の支払を始めて源泉徴収義務者となる場合には、給与支払事務所等を開設してから1か月以内に「給与支払事務所等の開設届出書」を所轄税務署長へ提出することが原則とされています。この届出書の提出先は、給与を支払う事務所、事業所その他これらに準ずるものなどの所在地を所轄する税務署長です。

ただし、個人の開業においては「個人事業の開業等届出書」の提出によって給与支払事務所等の開設手続きを兼ねることができるため、重ねて届出を行う負担が軽減されています。なお、この特例規定には適用期限が設けられており、令和8年1月1日以後に開業した場合を除きます。

事業所を構えて事業を開始する際には、自宅兼事務所やバーチャルオフィスなどの所在地を所轄する税務署を確認し、定められた期限内に適切な届出書を提出することが求められます。

届出書の名称 提出が必要となる主な対象 提出期限 提出先
個人事業の開業等届出書 個人で新たに事業を開始した者(事務所開設含む) 事業開始等の事実があった時 所轄税務署長
給与支払事務所等の開設届出書 国内で新たに給与の支払を始めて源泉徴収義務者となる会社や個人(※個人の開業届提出者を除く) 開設してから1か月以内 給与を支払う事務所等の所在地を所轄する税務署長

※個人が新たに事業を始めた場合は「個人事業の開業等届出書」を提出するため、「給与支払事務所等の開設届出書」の提出は不要です(令和8年1月1日以後に開業した場合を除きます)。

給料を支払う個人事業主が源泉徴収義務者となる条件とは何か

給与や利子、配当、税理士報酬などの所得を支払う者は、会社や協同組合だけでなく、人格のない社団・財団や個人であっても原則として全て源泉徴収義務者となります。

源泉徴収制度における一連の手続きは、法令により次の通り定められています。

  1. 給与や利子、配当、税理士報酬などの所得を支払う者が、
  2. その所得を支払う際に所定の方法により所得税額を計算し、
  3. 支払金額からその所得税額を差し引いて国に納付する。

個人事業主であっても、事業のために従業員やアルバイトを雇い、給料や賃金の支払を開始した時点から源泉徴収義務者としての法定義務を負うことになります。所得税を源泉徴収して国に納める義務のある人を源泉徴収義務者と呼びます。

ただし、例外として常時2人以下の家事使用人だけに給与を支払っている個人は、その支払う給与や退職金について源泉徴収をする必要がありません。事業用の従業員を雇っている場合にはこの例外には該当せず、源泉徴収の手続きを行わなければなりません。

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源泉徴収税額の計算と復興特別所得税の計算ルールはどうなっているか

賞与以外の給料や賃金を支払う際に源泉徴収をする税額は「給与所得の源泉徴収税額表」によって求め、平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間は2.1パーセントの復興特別所得税を含めて計算します。

給与を支払う際に源泉徴収することとなる税額の算定方法は、支払う給与が賞与である場合と賞与以外の給与である場合とで異なっています。そのため、税額の算定に当たっては支払う給与を賞与とそれ以外の給与とに区分する必要があります。

平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得については、源泉所得税を徴収する際に、源泉徴収すべき所得税の額に2.1パーセントの税率を乗じて計算した復興特別所得税を併せて徴収し、源泉所得税と併せて納付しなければなりません。平成25年分以降の「源泉徴収税額表」の税額には、復興特別所得税相当額が含まれています。

「給与所得の源泉徴収税額表」には月額表と日額表があり、給与の支給区分に応じて使用する税額表が決められます。さらに「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)の提出の有無に応じて適用する欄が異なります。例えば、給料が月払いで「扶養控除等申告書」を事業主に提出している人の場合は月額表の甲欄を適用し、提出していない人の場合は月額表の乙欄を適用して税額を求めます。なお、賞与に対する源泉徴収税額は通常「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を使って求めますが、月額表を使って求める場合もあります。

給与等の区分 使用する税額表 扶養控除等申告書の提出あり 扶養控除等申告書の提出なし
賞与以外の給与(月払い) 給与所得の源泉徴収税額表(月額表) 甲欄を適用 乙欄を適用
賞与以外の給与(日払い等) 給与所得の源泉徴収税額表(日額表) 区分に応じた欄を適用 区分に応じた欄を適用
賞与 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(※月額表を用いる場合あり) 所定の算出率を適用 所定の算出率を適用

源泉所得税の納付期限と納期の特例を受ける条件とは何か

源泉徴収義務者が源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則としてその源泉徴収の対象となる所得を支払った月の翌月10日までに納付しなければなりません。

源泉徴収をした税額は、その合計額をe-Taxを利用して納付するか、または「所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて最寄りの金融機関若しくは所轄税務署の窓口で納付します。「所得税徴収高計算書(納付書)」の記載に当たっては、住所、氏名や税務署から通知された整理番号などの記入漏れがないようにする必要があります。源泉徴収した所得税および復興特別所得税を納付する際は、これらの金額を区分することなく合計額を納付書に記載して納付します。納付期限の日が日曜日、祝日などの休日や土曜日に当たる場合には、その休日明けの日が納付期限となります。

居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について徴収して納付すべき所得税の額がない場合においても、「所得税徴収高計算書(納付書)」を提出するものとされています。

毎月の納付業務を軽減するための制度として「納期の特例」が設けられています。給与の支給人員が常時9人以下のときは、源泉徴収した所得税および復興特別所得税の納期を毎月ではなく、7月と翌年の1月の年2回にまとめることができます。この特例は、給与や退職手当、税理士などの報酬・料金について源泉徴収した所得税および復興特別所得税に限られています。

納期の特例の適用を受けるためには、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を給与の支払事務を取り扱う事務所等の所在地を所轄する税務署長へ提出する必要があります。この申請書はいつでも提出することができます。申請書を提出した日の属する月の翌月末日までに税務署長から承認又は却下の通知がない場合には、その申請月の翌月末日において承認があったものとされ、その申請月の翌々月の納付分から特例が適用されます。

給与支払者が行う年末調整の対象者と要件は何か

「扶養控除等申告書」を提出し、かつ給与等の金額が2,000万円以下の人については、その年の最後の給与等の支払をする際に年末調整を行う必要があります。

源泉徴収義務者である個人事業主は、毎月の給料から源泉徴収を行った税額の合計と、年間の給与総額に対して本来納めるべき年税額とを一致させるため、年末調整の事務を実施します。給与等の金額が2,000万円を超える人や、「扶養控除等申告書」を提出していない人は年末調整の対象とはなりません。

源泉徴収事務および年末調整のために必要な書類には、「源泉徴収税額表」「扶養控除等申告書」「源泉徴収簿」「年末調整のしかた」「源泉徴収のあらまし」などがあります。これらを整備し、適正な税額計算と帳簿の作成を行うことが求められます。

事業主が負う源泉徴収および年末調整の手続きに関する根拠法令等は、所得税法(所法6、183、185、186、190、194、204、216、217、229、230、別表第2~4)および東日本大震災からの復興のための施策を実施するために必要な財源の確保に関する特別措置法(復興財確法28)に規定されています。国税に関する不明点や具体的な相談については、所轄税務署や国税局電話相談センターなどの窓口が用意されています。

よくある質問

開業費はいつの時点で何年かけて経費にできますか?

開業費は繰延資産にあたり、任意の年に任意の額を償却して経費にできます。

特定の年数で均等に償却しなければならない制限はなく、事業の収支状況に応じて任意の年に全額を償却することも、数年に分けて任意の額ずつ償却することも認められています。利益が出ていない年には償却を行わず、利益が発生した年に経費として計上することが可能です。

個人事業主が開業時に税務署へ提出する書類は何ですか?

個人が新たに事業を始めたり事務所を設けたりした場合は、「個人事業の開業等届出書」を所轄税務署長へ提出します。

新たに事業を開始した個人は「個人事業の開業等届出書」を提出することになっているため、原則として「給与支払事務所等の開設届出書」を別途提出する必要はありません。ただし、この取り扱いは令和8年1月1日以後に開業した場合を除きます。

税理士に報酬を支払うときは源泉徴収が必要ですか?

給与所得について源泉徴収義務を有しない個人事業主が支払う税理士報酬については、源泉徴収をする必要はありません。

従業員を雇っておらず給与の支払を行っていない個人事業主であれば、税理士に報酬を支払う際に所得税を源泉徴収する必要はなく、報酬全額をそのまま支払います。ただし、従業員に給与を支払って源泉徴収義務者となっている事業主が税理士に報酬を支払う場合には、所定の源泉徴収が必要となります。

源泉徴収した税金はいつまでにどこへ納付すればよいですか?

原則として、源泉徴収の対象となる所得を支払った月の翌月10日までに納付します。

納付はe-Taxを利用するか、「所得税徴収高計算書(納付書)」を添えて最寄りの金融機関または所轄税務署の窓口で行います。納期限が日曜日、祝日などの休日や土曜日に当たる場合は休日明けの日が納期限です。給与の支給人員が常時9人以下の場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで7月と翌年1月の年2回にまとめて納付する特例を受けられます。

復興特別所得税の計算方法と適用期間はどうなっていますか?

平成25年1月1日から令和19年12月31日までの間に生ずる所得について、源泉徴収すべき所得税の額に2.1パーセントの税率を乗じて計算します。

源泉所得税を徴収する際に復興特別所得税を併せて徴収し、源泉所得税と合算して納付します。「給与所得の源泉徴収税額表」などの税額表には復興特別所得税相当額が含まれているため、税額表を用いる場合は表に記載された金額をそのまま適用します。

��開設してから1か月以内に所轄税務署長へ「給与支払事務所等の開設届出書」を提出することになっています。

給与の源泉徴収義務がない事業主が税理士に報酬を支払う場合も源泉徴収が必要ですか?

給与所得について源泉徴収義務を有する個人以外の個人が支払う弁護士報酬などの報酬・料金については源泉徴収をする必要がないため、従業員を雇用しておらず給与の源泉徴収義務がない個人事業主であれば、税理士報酬を支払う際に源泉徴収をする必要はありません。

ただし、従業員に給与を支払っており源泉徴収義務者となっている個人事業主が税理士に報酬を支払う場合には、支払の際に所定の税額を源泉徴収して国に納付する義務が生じます。

従業員への給与から源泉徴収した所得税はいつまでに納付すればよいですか?

源泉徴収した所得税および復興特別所得税は、原則としてその所得を支払った月の翌月10日までに、e-Taxまたは金融機関若しくは所轄税務署の窓口で納付しなければなりません。

納付期限の日が日曜日、祝日などの休日や土曜日に当たる場合には、その休日明けの日が納付期限となります。また、納付すべき税額がない場合であっても「所得税徴収高計算書(納付書)」を提出するものとされています。

源泉所得税の納期の特例を利用できる条件と手続きは何ですか?

給与の支給人員が常時9人以下の源泉徴収義務者であれば、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を所轄税務署長に提出して承認を受けることで、納期を7月と翌年1月の年2回にまとめることができます。

この特例の対象は給与や退職手当、税理士などの報酬・料金に限られます。申請書を提出した日の属する月の翌月末日までに税務署長から承認又は却下の通知がない場合には申請月の翌月末日に承認があったものとみなされ、申請月の翌々月の納付分から適用されます。

まとめ:開業費の償却と事業主の税務義務を適切に管理する

開業費は繰延資産にあたり、任意の年に任意の額を償却できるため、事業の収支状況や将来の所得の見込みに合わせて柔軟に経費化を進めることが可能です。開業前に支払った費用を適切に管理し、確定申告において効果的に活用することが個人事業の税務管理の基本となります。

同時に、事業を開始して従業員への給与支払いや税理士等の専門家への報酬支払いが発生する場合には、源泉徴収義務者としての適切な手続きと納税管理が求められます。原則として翌月10日までの納付が必要となりますが、給与の支給人員が常時9人以下であれば納期の特例を活用して7月と翌年1月の年2回に納付をまとめることも可能です。

令和7年4月1日現在の法令等に基づき、開業時の届出、日々の帳簿付け、源泉徴収税額表を用いた正確な税額計算、年末調整といった一連の税務手続きを漏れなく行い、健全な事業運営を進めていきましょう。

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