一人社長の社会保険 完全ガイド
法人設立後に必要な社会保険の加入手続き・保険料・届出書類を、すべて自分で手続きした実体験をもとに解説します。
1. 一人法人の社会保険 — 全体像
法人を設立すると、代表取締役1人だけの会社であっても社会保険(健康保険・厚生年金保険)への加入が義務です。個人事業主時代は国民健康保険・国民年金でしたが、法人化した瞬間にこちらに切り替わります。
法人設立の手順がまだの方は、一人法人の作り方 完全ガイドをご覧ください。
2. 加入する保険の種類
| 保険 | 対象 | 負担 |
|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ) | 病気・ケガの医療費 | 労使折半(会社50%・個人50%) |
| 介護保険(40〜64歳のみ) | 介護サービス | 健康保険に上乗せ |
| 厚生年金保険 | 老後・障害・遺族年金 | 労使折半(会社50%・個人50%) |
雇用保険・労災保険について
法人の代表取締役は雇用保険・労災保険の対象外です。これらは「労働者」を雇用した場合にのみ必要になります。一人社長のうちは手続き不要です。
3. 必要書類と届出先
届出先
会社の所在地を管轄する年金事務所です。法務局(登記)でも税務署でもありません。
提出する書類
「うちの会社は社会保険に加入します」という届出。法人の基本情報を記載。
「この人(代表取締役)が社会保険に加入します」という届出。報酬月額を記載。
配偶者や子供を健康保険の扶養に入れる届出。年収130万円未満が条件。
添付書類
- 法人の登記簿謄本(履歴事項全部証明書)— 発行から90日以内
- 法人番号通知書のコピー(マイナンバーの法人版)
- 代表者のマイナンバーカードまたは通知カード
- 被扶養者がいる場合: 扶養者の所得証明書等
4. 年金事務所での手続き手順
上記の書類をすべて揃えます。届出書類は日本年金機構のサイトからダウンロードできます。
管轄の年金事務所に書類を持参します。予約不要ですが、混雑時は待ち時間あり。
担当者が書類を確認し、不備があればその場で修正を指示されます。
手続き完了後、健康保険証が会社宛に郵送されます。届くまでの間は「健康保険資格証明書」を窓口で発行してもらえます。
5. 保険料の計算方法
社会保険料は標準報酬月額 × 保険料率で計算されます。
| 保険 | 料率(2026年度) | 備考 |
|---|---|---|
| 健康保険 | 9.33%〜10.34% | 都道府県により異なる |
| 介護保険(40〜64歳) | 1.59% | 全国一律 |
| 厚生年金 | 18.300% | 全国一律・2017年以降固定 |
具体例: 月額報酬30万円(東京都・35歳)の場合
| 個人負担 | 会社負担 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 14,970円 | 14,970円 | 29,940円 |
| 厚生年金 | 27,450円 | 27,450円 | 54,900円 |
| 合計 | 42,420円 | 42,420円 | 84,840円 |
一人社長の実質負担は月額84,840円、年間約102万円です。
6. 役員報酬と保険料の最適バランス
役員報酬を決める際は、社会保険料だけでなく以下のバランスを考慮する必要があります。
| 役員報酬 | 社会保険料 | 所得税・住民税 | 法人利益 |
|---|---|---|---|
| 高くする | 増える | 増える | 減る(経費増) |
| 低くする | 減る | 減る | 増える(法人税増) |
法人設立にかかる費用全体は法人設立コスト シミュレーターで確認できます。報酬額を決めたら手取り計算シミュレーターで手取り額も確認しましょう。
7. 保険料の支払いと経理処理
支払い方法
- 口座振替(おすすめ)— 届出時に口座振替依頼書を提出
- 納付書 — 年金事務所から届く納付書で金融機関・コンビニで支払い
支払い時期
当月分の保険料を翌月末日までに納付します。例: 4月分 → 5月31日が期限。
経理処理(仕訳)
一人社長の場合の典型的な仕訳:
- 給与支給時: 役員報酬(借方)/ 預り金+普通預金(貸方)
- 保険料納付時: 法定福利費+預り金(借方)/ 普通預金(貸方)
役員報酬の給与計算・源泉徴収については一人社長の給与計算ガイドで解説しています。確定申告の詳細は確定申告ガイドをご確認ください。
8. 実体験 — つまずいたポイント
登記完了まで予想以上に時間がかかり、5日以内の届出期限に間に合いませんでした。結果的には2週間後に届出しましたが、問題なく受理されました。ただし、設立日に遡って保険料が計算されるため、初回は2ヶ月分まとめて請求されました。
社会保険に加入した後、国民健康保険の脱退手続きを市区町村役場で別途行う必要があります。自動的には切り替わりません。忘れると二重に保険料を払うことになります。
社会保険の保険証が届くまで2〜3週間かかります。その間に病院に行く必要がある場合は、年金事務所で「健康保険資格証明書」を発行してもらいましょう。窓口でお願いすれば即日発行されます。
9. よくある質問
Q. 一人社長でも社会保険に加入しなければなりませんか?
はい。法人は従業員数に関係なく社会保険の適用事業所となります。代表取締役は役員報酬が発生する限り、健康保険・厚生年金への加入が義務です。
Q. 役員報酬0円なら社会保険に入らなくていいですか?
役員報酬が0円の場合は、社会保険に加入できません(保険料を算定できないため)。ただし、国民健康保険・国民年金に加入する必要があります。
Q. 社会保険の手続きは自分でできますか?社労士は必要?
自分でできます。筆者も社労士を使わずすべて自分で手続きしました。年金事務所の窓口で書き方を教えてもらえるので、書類を事前準備すればスムーズです。
Q. 手続きの期限を過ぎたらどうなりますか?
設立後5日以内が届出期限ですが、遅れても届出は受理されます。ただし、届出日ではなく資格取得日(設立日)に遡って保険料が発生するため、まとめて請求されることがあります。
Q. 協会けんぽと組合健保、どちらに入るべきですか?
一人法人の場合、選択肢は基本的に協会けんぽ(全国健康保険協会)です。組合健保は同業種の事業者が集まって設立するもので、一人法人で加入できるケースは限られます。IT業界ではITS健保などが有名です。