一人法人の作り方 完全ガイド

フリーランスから法人成り。設立費用・全手順・届出先・銀行口座・社会保険まで、一人で株式会社を設立した筆者がすべて解説。

この記事の筆者について

フリーランスのWebエンジニアとして活動後、一人で株式会社を設立。設立手続き・届出・銀行口座開設・社会保険の手続きまで、すべて自分で行いました。税理士は契約していますが、社労士は契約せず自分で対応しています。この記事はその実体験に基づいています。

なぜ一人法人を作るのか

フリーランスとして売上が伸びてくると「法人にした方が税金が安くなるのでは?」と考え始めます。一般的に、年間の課税所得が800万円を超えるあたりから法人の方が税負担が軽くなると言われています。

法人成りのメリット

  • 節税効果 — 法人税率は最大23.2%。個人の所得税(最大45%)+ 住民税(10%)と比べて有利になるラインがある
  • 社会的信用 — 法人でないと取引できないクライアントが一定数存在する
  • 役員報酬で所得分散 — 給与所得控除が使えるため、個人事業より手取りが増えるケースがある
  • 経費の幅が広がる — 出張日当、社宅制度、退職金制度など法人だけの節税策がある
  • 赤字の繰越 — 個人は3年、法人は10年繰り越せる

法人成りのデメリット

  • 社会保険料の負担 — 一人法人でも加入必須。会社負担分と個人負担分の「両方」が自分の財布から出る
  • 赤字でも法人住民税 — 最低でも年間約7万円
  • 事務負担の増加 — 法人税申告、源泉徴収、年末調整、社会保険の届出…
  • 設立費用 — 株式会社で約25万円、合同会社でも約10万円

筆者の体験

正直、事務負担は想像の3倍でした。設立手続きだけでなく、設立後の届出の多さ、銀行口座開設の手間、社会保険の切り替え…一つひとつは難しくないのですが、「やることが多すぎて何から手をつけていいかわからない」状態になりました。この記事は、過去の自分に向けて書いています。

株式会社 vs 合同会社|どちらを選ぶべき?

株式会社 合同会社(LLC)
設立費用(電子定款) 約20〜25万円 約6〜10万円
定款認証 必要(3〜5万円) 不要
登録免許税 最低15万円 最低6万円
社会的信用 高い やや低い
代表者の肩書 代表取締役 代表社員
決算公告 義務あり 不要
役員任期 最長10年(登記変更が必要) なし
上場の可能性 あり なし

結論:コスト重視なら合同会社、信用重視なら株式会社です。

一人法人で「とりあえず法人格が欲しい」なら合同会社で十分。ただしBtoB取引が多い場合や、将来の資金調達を考えるなら株式会社をおすすめします。

筆者が株式会社を選んだ理由

クライアントの中に「合同会社とは取引しない」という大手企業がありました。設立費用は合同会社より15万円ほど高くつきましたが、信用面で不利になるリスクを考えると、株式会社の方がトータルでは安いと判断しました。

設立費用のリアル

「法人設立 費用」で検索すると様々な数字が出てきますが、実際にかかった費用の内訳を公開します。

株式会社の設立費用(筆者の場合)

項目 金額 備考
定款認証手数料 30,000〜50,000円 資本金額で変動
定款の収入印紙 0円 電子定款なら不要(通常4万円)
登録免許税 150,000円 資本金×0.7%か15万円の高い方
登記簿謄本 1,200円 600円×2通
印鑑証明 900円 450円×2通
会社実印セット 約5,000円 ネット注文(実印・銀行印・角印)
合計 約20〜25万円

費用が予想以上だった話

ネットで「株式会社の設立費用は約20万円」と見て準備していましたが、実際にはそれ以外の出費が積み重なりました。会社実印のセット、登記簿謄本を多めに取得、交通費、後述する法人口座開設時の書類準備費用…。余裕を持って30万円は用意しておくべきです。

設立費用をシミュレーションしたい方は → 法人設立コスト シミュレーターで即計算できます。

設立手続きの全ステップ

一人法人の設立手続きを時系列で解説します。すべて自分でやる場合、2〜4週間が目安です。

1

基本事項の決定(1日)

  • 会社名(商号)— 法務局で類似商号を確認
  • 本店所在地 — 自宅でOK(賃貸の場合は契約書を確認)
  • 事業目的 — 将来やりそうなことも含めて広めに設定
  • 資本金 — 1円から可能だが、100万円以上が取引先への信用に
  • 事業年度 — 設立日から一番遠い月末がおすすめ(初年度を長くする)
2

会社実印の作成(3〜5日)

ネット注文で3点セット(実印・銀行印・角印)が5,000円前後。設立登記で必要なので先に注文。

3

定款の作成・認証(3〜7日)

  • 定款を作成(テンプレートは法務局サイトにあり)
  • 電子定款にすると印紙代4万円が不要(マイナンバーカード + ICカードリーダーが必要)
  • 公証役場で定款認証を受ける(事前予約制)
  • 合同会社の場合、定款認証は不要
4

資本金の払い込み(1日)

発起人(自分)の個人口座に資本金額を振り込み。通帳のコピーを取る(ネットバンクの場合は振込明細のスクショ)。

5

設立登記の申請(1日 + 審査7〜10日)

  • 法務局に登記申請書類を提出
  • オンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)も可能
  • 審査に7〜10営業日
  • 申請日 = 会社の設立日になる

手続きの多さに圧倒された話

法務局→公証役場→法務局→税務署→都道府県税事務所→市区町村→年金事務所→ハローワーク(一人法人でも届出が必要なケースあり)…。「これ、全部自分でやるの?」と何度も思いました。でも一つひとつは実はそんなに難しくない。問題は「何を」「いつまでに」「どこに」出すかが分かりにくいこと。下の届出一覧表を作ったのはそのためです。

設立後の届出一覧

設立登記が完了したら、以下の届出が必要です。期限が短いものもあるので注意。

届出書類 届出先 期限
法人設立届出書 税務署 設立から2ヶ月以内
青色申告の承認申請書 税務署 設立から3ヶ月以内(必須!)
給与支払事務所等の開設届出書 税務署 設立から1ヶ月以内
源泉所得税の納期の特例の承認申請書 税務署 随時(提出推奨)
法人設立届出書 都道府県税事務所 各自治体による
法人設立届出書 市区町村 各自治体による
健康保険・厚生年金 新規適用届 年金事務所 設立から5日以内
被保険者資格取得届 年金事務所 設立から5日以内

ポイント

「源泉所得税の納期の特例」は必ず出しましょう。通常は毎月納付ですが、この届出で年2回(7月と1月)にまとめられます。一人法人の事務負担が大幅に減ります。

法人口座の開設|最大の壁

設立手続きよりも、多くの人がつまずくのが法人口座の開設です。

なぜ法人口座が開設しにくいのか

  • マネーロンダリング対策で審査が厳格化
  • 設立直後は実績がなく信用が低い
  • バーチャルオフィスの住所は審査に不利
  • 事業内容が不明確だと断られる

口座開設の成功率を上げるコツ

  1. 本店所在地と同じエリアの地方銀行・信用金庫に最初に申し込む(メガバンクより審査が柔軟)
  2. 事業計画書を準備する(A4で1〜2枚、売上見込みと取引先を記載)
  3. 取引先との契約書や発注書があれば持参(実態があることの証明)
  4. 個人事業時代の確定申告書を持参(事業の継続性をアピール)
  5. ネット銀行を並行して申し込む(GMOあおぞら、住信SBI等は比較的通りやすい)

銀行口座開設で苦戦した話

最初に申し込んだメガバンクは審査に2週間かかった挙句、お断り。理由は教えてもらえませんでした。次に地元の信用金庫に行ったところ、個人口座を持っていたこともあり、1週間で開設できました。並行してGMOあおぞらネット銀行にも申し込み、こちらも問題なく開設。最初からネット銀行 + 地元金融機関のダブルで申し込むのが正解です。

社会保険の手続き

一人法人でも、社長(役員)は健康保険と厚生年金に加入義務があります。これが一人法人の最大の負担と言っても過言ではありません。

国民健康保険 → 健康保険(協会けんぽ)への切り替え

  • 年金事務所に「新規適用届」と「被保険者資格取得届」を提出
  • 役員報酬の金額によって保険料が決まる
  • 会社負担分と個人負担分、両方が自分の持ち出し(ここを理解していない人が多い)

一人法人の社会保険料の目安

役員報酬30万円/月の場合(東京都、40歳未満):

項目 会社負担 個人負担 合計
健康保険料 約15,000円 約15,000円 約30,000円
厚生年金保険料 約27,450円 約27,450円 約54,900円
合計 約42,450円 約42,450円 約84,900円/月

一人法人では、この約85,000円/月が全額自分の負担になります。年間で約100万円。フリーランス時代の国民健康保険 + 国民年金より高くなるケースが多いです。

役員報酬ごとの手取り額は → 手取り計算シミュレーターで確認できます。

社会保険の手続きで困ったこと

年金事務所の窓口で「新規適用届」を出そうとしたら、登記簿謄本の原本が必要と言われ出直しました。コピーではダメです。また、国民健康保険の「脱退届」を市区町村に出し忘れて、2ヶ月間二重に保険料を払ってしまいました。社保の切り替えは「加入」と「脱退」の両方をセットで行うことを強くおすすめします。

社労士は必要か?

一人法人で社労士を契約するかどうかは悩みどころです。

  • 社労士の費用: 月額1〜3万円 + スポット対応で数万円
  • 一人法人で社労士が必要な場面: 設立時の社保手続き、算定基礎届(年1回)、月額変更届(報酬を変えたとき)
  • 現実的には: 設立時の手続きだけスポットで依頼するか、年金事務所の窓口で教えてもらいながら自分でやるのが最もコスパが良い

筆者の選択

税理士は契約していますが、社労士は契約していません。年に数回の届出は年金事務所で教えてもらいながら自分で対応しています。正直、一人法人で従業員を雇わないなら社労士は不要だと感じています。ただし設立時は不安だったので、最初の手続きだけ税理士経由で社労士を紹介してもらい、スポットで相談しました。

設立後にかかるランニングコスト

法人は設立して終わりではありません。毎年のランニングコストを把握しておきましょう。

項目 年間コスト 備考
法人住民税(均等割) 約70,000円 赤字でも必ずかかる
税理士顧問料 約20〜40万円 月2〜3万円 + 決算料
会計ソフト 約2〜5万円 freee、マネーフォワードなど
登記変更(役員任期切れ時) 約10,000円/回 株式会社のみ。最長10年に1回
社会保険料 約100万円 役員報酬月30万円の場合

設立費用を安くする5つの方法

  1. 電子定款を使う(−4万円)

    紙の定款は収入印紙4万円が必要。電子定款なら0円。マイナンバーカードとICカードリーダーがあれば自分で作成可能。リーダーは2,000円程度で購入できます。

  2. 合同会社を選ぶ(−約15万円)

    定款認証が不要+登録免許税が安い。一人法人でBtoCなら合同会社で十分。Amazon、Apple Japan、Google合同会社も合同会社です。

  3. 設立代行サービスの「0円プラン」を使う

    freee会社設立やマネーフォワード会社設立は、設立手数料0円(会計ソフト契約が条件)。手続きの手間も大幅に減ります。

  4. 会社実印はネットで安く作る

    街のはんこ屋で1〜3万円するセットが、ネット注文なら3,000〜5,000円。品質に大差はありません。

  5. 登記簿謄本はオンラインで請求する

    法務局の窓口で600円のところ、オンライン請求(郵送受取)なら500円。複数枚必要なときに差が出ます。

あなたの設立費用を計算 → 法人設立コスト シミュレーター

よくある質問

Q. 資本金は1円でも大丈夫ですか?

法律上は1円で設立可能です。ただし、取引先や銀行からの信用を考えると、最低100万円を推奨します。特に法人口座の開設審査では、資本金の額を見られることがあります。

Q. 自宅を本店所在地にしても問題ないですか?

可能です。ただし、賃貸物件の場合は契約書で「事務所利用可」かを確認してください。登記簿謄本に住所が載るため、プライバシーが気になる場合はバーチャルオフィスの利用も選択肢です(ただし銀行口座の審査では不利になることがあります)。

Q. 一人法人でも社会保険に入る必要がありますか?

はい。法人の代表者(役員)は、報酬が発生する場合は健康保険と厚生年金に加入義務があります。報酬を0円にすれば加入不要ですが、その場合は国民健康保険と国民年金のままとなります。

Q. 設立手続きは全部自分でできますか?

できます。筆者も全て自分で行いました。ただし、定款の電子認証にはマイナンバーカードとICカードリーダーが必要です。手間を減らしたい場合は、freee会社設立やマネーフォワード会社設立などの無料サービスの利用がおすすめです。

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