社会保険の適用拡大はいつから?短時間労働者と事業所の確認点

小規模事業所の経営者・従業員。パートやアルバイトを雇う小規模事業所が、社会保険の加入対象と準備時期を確認するためのガイド

著者: アキスケ

ひと言でわかる

社会保険の適用拡大は事業所規模や施行時期で確認点が変わります。従業員数・労働時間・雇用見込みを公式案内で確認しましょう。

従業員を雇用する事業所の経営者や短時間で働く従業員の方は、社会保険の加入対象がどのような基準で拡大されるのかを正確に把握しておく必要があります。社会保険の適用拡大は事業所規模や施行時期で確認点が変わります。従業員数・労働時間・雇用見込みを公式案内で確認しましょう。

厚生年金保険や健康保険といった被用者保険の適用拡大は、企業等の規模(従業員数)に応じて段階的に施行されます。事業所側においては、新たに社会保険へ加入する従業員が増えることで企業等が負担する社会保険料(事業主負担分)が増加するため、事前に社内準備を進めるとともにシミュレーターを活用した試算を行うことが求められます。

パートやアルバイトなどの短時間労働者として働く従業員側においては、社会保険に加入することで将来受け取る公的年金の額が増加し、病気やけが、出産による休業時の医療保障が充実するという利点があります。その一方で、毎月の手取り額の変化や、家族の勤務先における手当の適用要件について事前に確認しておく必要があります。

厚生労働省の特設サイトや日本年金機構が公開している公式情報に基づき、対象となる短時間労働者の要件、労働時間や賃金の算定方法、事業所における準備事項を正しく整理することが大切です。

社会保険の適用拡大は事業所の従業員数によっていつから始まるのか

社会保険の適用拡大は、企業等の規模(従業員数)に応じて段階的に適用時期が設定されています。現在は常時51人以上の事業所が適用対象となっていますが、2027年10月からは常時36~50人の従業員を使用する事業所へと対象が広がり、その後も段階的に拡大されます。

企業等の規模(従業員数)の判定は、フルタイム及びフルタイムの4分の3以上の労働時間で働く従業員の数(厚生年金保険の被保険者数)によって行います。法人の事業所の場合は、支店や店舗ごとの人数ではなく、法人全体における従業員数で判断します。

自社における正確な厚生年金保険の被保険者数については、日本年金機構のウェブサイトや事業所検索を通じて確認することが可能です。正社員の方は企業規模に関わらず社会保険の適用対象となりますが、パート・アルバイト等の短時間労働者については、所属する企業の規模に応じたスケジュールで適用拡大の対象となります。

企業等の規模(従業員数)パート・アルバイトの方の適用時期規模判定の従業員数の定義
51人以上すでに社会保険の加入対象フルタイム及びフルタイムの4分の3以上の労働時間で働く従業員数(厚生年金保険の被保険者数)
36〜50人2027年10月に適用拡大の対象法人全体における厚生年金保険の被保険者数(常時36~50人の従業員を使用する事業所)
21〜35人2029年10月に適用拡大の対象法人全体における厚生年金保険の被保険者数
11〜20人2032年10月に適用拡大の対象法人全体における厚生年金保険の被保険者数
1~10人2035年10月に適用拡大の対象法人全体における厚生年金保険の被保険者数

事業主や人事労務担当者は、自社の厚生年金保険の被保険者数を確認したうえで、該当する施行時期に向けた準備スケジュールを立てる必要があります。従業員の等級や保険料の算出基準については、社会保険料額表の見方を確認しておくことで、円滑に保険料の計算を行えます。

短時間労働者が社会保険の加入対象となる要件は何か

短時間労働者が社会保険の適用対象となるためには、週の所定労働時間、学生区分、所定内賃金、雇用の見込みに関するすべての要件に該当する必要があります。2027年10月からは常時36~50人の従業員を使用する事業所(現在は51人以上の事業所)に勤務する短時間労働者に対して、これらの基準が適用されます。

具体的な加入要件として、週の所定労働時間が20時間以上であること、学生でないこと、所定内賃金の月額が8.8万円以上であること、フルタイムの従業員と同じく2ヶ月を超える雇用の見込みがあることのすべてを満たす必要があります。

要件項目具体的な加入基準制度上の取り扱いおよび備考
週の所定労働時間週の所定労働時間が20時間以上就業規則や雇用契約書等に基づき判定
学生区分学生でないこと高等学校・大学・短期大学・専修学校等の生徒は原則対象外(例外規定あり)
所定内賃金所定内賃金の月額が8.8万円以上(年収約106万円)全ての都道府県で最低賃金が時給1,016円以上となったため満たすことになり、2026年10月に撤廃予定
雇用の見込み2ヶ月を超える雇用の見込みが必要フルタイムの従業員と同様の要件(契約更新の見込み・実績を含む)

所定内賃金の月額が8.8万円以上(年収約106万円)という要件に関しては、全ての都道府県で最低賃金が時給1,016円以上となったことにより、最低賃金以上で週20時間以上働く場合はこの月額要件を満たすことになります。そのため、従業員が収入を意識する必要はなく、この要件は2026年10月に撤廃される予定となっています。

短時間労働者の加入基準や扶養に関する考え方を確認する際には、社会保険の扶養基準をあわせて確認しておくと、要件ごとの整理がしやすくなります。

週の所定労働時間や雇用見込みはどう判定されるのか

短時間労働者の所定労働時間は、原則として就業規則や雇用契約書等の定めに従って判断します。週の所定労働時間が契約上あらかじめ定まっていない場合には、労働形態に応じた計算方法を用いて週あたりの時間を算出します。

所定労働時間が短期的・周期的に変動する場合は、その周期中の1週間の所定労働時間の平均で判断します。所定労働時間が1ヶ月単位で定められている場合は、1ヶ月の所定労働時間を52/12で割って判断します。また、繁忙期の特定の月が例外的に長いなど、特定月の所定労働時間に例外的な長短がある場合は、当該特定の月以外の通常の月の所定労働時間を52/12で割って判断します。

契約上の所定労働時間が週20時間未満であっても、実際の労働時間が2ヶ月連続で週20時間以上となり、それ以降も続くと見込まれる方は、3ヶ月目から社会保険の加入対象となります。契約内容だけでなく実態の労働時間に基づいた管理が必要です。

雇用の見込みについては、雇用契約期間が2ヶ月以内であっても、契約の更新が予定されている場合や、同条件で雇用された者が更新された実績があるなど、2ヶ月を超えて雇用される見込みがある場合は社会保険の加入対象となります。ただし、季節的な業務や臨時的事業の事業所で働く場合は、対象とならない場合があります。

雇用保険の適用事業所に雇用される労働者は、1週間の所定労働時間が20時間以上であり、かつ31日以上の雇用見込みがある場合に原則として全て雇用保険の被保険者となります。したがって、社会保険の対象となる短時間労働者の要件に該当する場合は、社会保険と雇用保険の両方に加入することになります。

学生の区分や対象外となる基準はどう整理されているのか

短時間労働者の加入要件にある「学生でないこと」の「学生」とは、主に高等学校の生徒、大学又は短期大学の学生、専修学校に在学する生徒等が該当します。これらの学校に在学している間は、原則として短時間労働者の社会保険適用対象から除外されます。

ただし、学生であっても一定の条件を満たす場合は社会保険の対象となります。卒業した後も引き続き当該適用事業所に使用されることとなっている者、一部の教育施設に在学する者、休学中の者、定時制課程及び通信制課程に在学する者その他これらに準じる者(いわゆる社会人大学院生等)は、学生であっても社会保険の対象に含まれます。

事業主や人事労務担当者は、学生アルバイトを雇用する際に在学形態や卒業後の雇用見込みを確認し、社会保険の適用対象に該当するかどうかを個別に判定する必要があります。「学生でないこと」に関する詳細な取り扱い基準は、日本年金機構の特設サイトで案内されています。

従業員の雇用に伴う各種控除や給与計算の確認を行う場合は、給与明細の控除チェックを通じて給与明細の各項目を確認することが推奨されます。

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社会保険に加入すると従業員の年金や医療保障はどう変わるのか

短時間労働者が社会保険に加入すると、公的年金と公的医療保険の保障内容が手厚くなります。厚生年金保険に加入することにより、将来受け取る公的年金において、国民年金の基礎年金に加えて厚生年金を受け取ることができるようになります。年金額の変化については、厚生労働省の公的年金シミュレーターで試算できます。

健康保険に加入することにより、病気やけが、出産のため会社を休んだ場合に収入が保障される傷病手当金や出産手当金の給付を受けることが可能になります。傷病手当金や出産手当金の1日当たりの支給金額は、法律に基づく計算式によって算出されます。

対象区分1日当たりの金額の計算式計算上の端数処理および特例
通常の計算(過去12ヶ月の実績がある場合)【支給開始日以前12ヶ月間の標準報酬月額を平均した額】÷ 30日 × 2/3働いた月に関わらず30日で割ったところで1の位を四捨五入、2/3で計算した金額に小数点があれば小数点第1位を四捨五入
支給開始日以前の期間が12ヶ月に満たない場合①支給開始日の属する月以前の継続した各月の標準報酬月額の平均額、②加入する健康保険の標準報酬月額の平均額、のいずれか低い額を使用して計算12ヶ月未満の被保険者期間における特例計算方法

支給開始日とは、傷病手当金または出産手当金の支給が始まる日のことです。会社が加入している健康保険の保険者(健康保険組合や協会けんぽなど)によって金額が異なる場合があるため、不明な点は加入先の保険者への確認が必要です。また、休業期間中に会社から給与が支払われる場合は、傷病手当金(出産手当金)と給与の差額が支給され、支払われる給与が傷病手当金(出産手当金)よりも多い場合は手当金は支給されません。

毎月の社会保険料負担に伴う手取り額の変化については、厚生労働省の手取りかんたんシミュレーターで試算が可能です(月額給与が88,000円以上210,000円未満の場合の試算に限定)。手取り額や保険料の目安を把握したい場合は、社会保険料計算ツールを活用することで計算を行えます。

iDeCoや国民年金基金および家族の扶養手当への影響はどうなるのか

社会保険に加入すると公的年金の被保険者種別が変更となるため、加入中の私的年金制度において所定の手続きが必要となります。個人型確定拠出年金(iDeCo)や国民年金基金に加入している従業員は、それぞれの手続き内容を確認しなければなりません。

iDeCoの加入者で、従来国民年金の第1号被保険者、第3号被保険者又は任意加入被保険者であった方が社会保険に加入する場合には、iDeCoの種別変更の手続きが必要です。手続きを行わない場合、iDeCoの掛金の引落しが停止されますので注意が必要です。詳細は利用中の金融機関等に問い合わせる必要があり、オンライン手続きサービス(e-iDeCo)を利用できる場合もあります。制度の仕組みについては、iDeCoの基礎知識で確認できます。

国民年金基金の加入員である方が社会保険に加入した場合には、国民年金基金の加入員資格を喪失します。そのため、国民年金基金へ資格喪失届の提出を行う必要があります。

現在配偶者等の扶養に入っている方が社会保険に加入する場合、自身に新たに社会保険料が発生することに加えて、配偶者の勤務先で支給されている「家族手当」や「配偶者手当」の支給対象外となる可能性があることにも留意が必要です。家族に相談する際は、将来受け取れる年金の増額や休業時の給付(傷病手当金、出産手当金)といった利点とあわせて、手当等の適用条件を伝えることが大切です。

事業所が準備すべき事項と問い合わせ窓口はどこか

適用拡大によって社会保険に加入する従業員が増えると、企業等が負担する社会保険料(事業主負担分)が増加します。事業主が負担する社会保険料額の概算は、加入する人数や従業員の給料に応じて異なるため、厚生労働省の社会保険料かんたんシミュレーターで試算することができます。

厚生労働省の特設サイトでは、社内準備の進め方や企業等への効果、支援制度に関する情報が提供されています。経営層、現場責任者、従業員それぞれの対象に応じた説明ポイントが整理されており、「社会保険適用拡大ガイドブック」や「社会保険適用拡大のこんなとき!どうする?手引き」、チラシ類、ショート動画や5分動画などの解説コンテンツが掲載されています。

厚生年金保険の加入や適用拡大に関する事業所および加入者からの相談先として、日本年金機構では専用の問い合わせ窓口を設けています。「ねんきん加入者ダイヤル(事業所、厚生年金加入者向け)」の電話番号は 0570-007-123 です。受付時間等の詳細については、日本年金機構のウェブサイト(https://www.nenkin.go.jp/section/tel/index.html)で確認できます。

よくある質問

短時間労働者はどのような条件で社会保険の対象になりますか?

2027年10月からは常時36~50人の従業員を使用する事業所(現在は51人以上の事業所)に勤務する短時間労働者で、週の所定労働時間が20時間以上、学生でない、所定内賃金の月額が8.8万円以上、2ヶ月を超える雇用の見込みがあるというすべての要件に該当する方が対象となります。

なお、全ての都道府県で最低賃金が時給1,016円以上となったため、最低賃金以上で週20時間以上働く場合は月額8.8万円以上の要件を満たします。この所定内賃金の月額要件は2026年10月に撤廃される予定です。

契約期間が2ヶ月以内の場合でも社会保険に加入する必要がありますか?

契約期間が2ヶ月以内であっても、更新が予定されている場合や、同条件で雇用された者が更新された実績があるなど、2ヶ月を超えて雇用される見込みがある場合は社会保険の加入対象となります。

ただし、季節的な業務や臨時的事業の事業所で働く場合は、加入の対象とならない場合があります。契約期間の定めだけでなく、更新の見込みや事業所の業務実態に基づいて判断されます。

雇用保険のみに加入して社会保険には入らないことはできますか?

社会保険の対象となる短時間労働者の要件に該当する場合は、社会保険と雇用保険の両方に加入することになり、雇用保険のみを選択して加入することはできません。

雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある場合に原則として全て被保険者となります。社会保険の加入要件を満たす短時間労働者は両方の制度の対象となります。

学生アルバイトは全員が社会保険の適用対象外になりますか?

高等学校の生徒、大学又は短期大学の学生、専修学校の生徒等は原則として対象外ですが、卒業後も引き続き当該事業所で使用される予定の方や休学中の方、定時制課程・通信制課程に在学する方などは学生であっても社会保険の対象となります。

いわゆる社会人大学院生や一部の教育施設に在学する者も対象に含まれるため、学生であることのみをもって一律に対象外となるわけではありません。

社会保険に加入した場合にiDeCoの手続きは必要ですか?

従来国民年金の第1号被保険者、第3号被保険者又は任意加入被保険者であった方が社会保険に加入する場合には、iDeCoの種別変更の手続きが必要となります。

種別変更の手続きを行わない場合、iDeCoの掛金の引落しが停止されます。利用中の金融機関またはオンライン手続きサービス(e-iDeCo)で手続きを行う必要があります。また、国民年金基金に加入していた方は資格喪失届の提出が必要です。